この記事では、小手鞠るい氏の小説『情事と事情』の原作ラストをネタバレしつつ、あらすじや倉科カナ主演のドラマとの違いを徹底解説していきます。

全7章（七話）から成る小説の各章のあらすじ詳細の他、衝撃の結末について、何を意味するのか、作者が伝えたかったことは何かを考察します。

「不倫」や「事情のある恋愛」というテーマが織りなす複雑な人間模様が、どのような結末を迎えるのか。Leminoオリジナルドラマの原作小説を深掘りし見ていきましょう。

【顔写真】情事と事情「恋愛相関図」：ドラマキャスト紹介

原作小説は7話構成で、それぞれの登場人物の視点から描かれる恋愛群像劇です。

ネタバレあり：『情事と事情』原作小説のあらすじ

まずは、原作小説のあらすじから詳しく紹介します。

第一話　優雅なお茶の時間

場所は高級ホテルのティーラウンジ「オールドローズ」。フリーライターの中条彩江子（なかじょう さえこ）は優雅にショパンを引くピアニスト（玉木まりも）を見つめながら、退屈な取材をしています。取材後、自身が企画立案した連載ルポ（仮タイトル「弱者のための幸福な社会とは」）が没になったと編集者からきかされます。憤懣ふんまんやるかたなくなった彩江子は、帰りにふらっとバー「水無月」に立ち寄ります。

結城愛里紗（ゆうき ありさ）は、夫である修（しゅう）を送り出した後、表参道にある仕事場のマンションで優雅な時間を過ごしています。仕事場とはいっても自身で家賃を払っているわけではなく、修が個人投資用の物件として所有しているマンションの一室。愛里紗の仕事は装幀そうてい、趣味は料理とガーデニング。自身の美意識があり、人が言う贅沢は愛里紗にとって普通のことであり、退屈なことでもあります。

島崎英里華（しまざき えりか）は愛里紗の双子の妹で十年ほど前からアメリカで暮らしています。ファッション関係の仕事をしており、自由気ままに飛び回り独身生活を謳歌しています。

水無月流奈（みなづき るな）と佐藤玲門（さとう れいもん）は優雅な大人の遊び中。三十以上も年の差のある二人はロンドンで出会い、今では一緒に暮らす仲です。住まいとしている建物の一階で流奈はピアノバー「水無月」を営んでおり、玲門はそこでピアノを弾いています。

第二話　ちょっと変わったリクエスト

玉木まりもは結城修と不倫の仲。定職に就かず修の一族が営んでいる貿易会社で週三日の雑用アルバイト、その他に午後から夕方にかけての数時間、ホテルのティーラウンジでピアノ弾きをしています。修に入れあげているわけでもなく、修との関係はいつでも自分から解消できると思っています。

二人の不倫のきっかけは、まりもが上司からセクハラを受け修に直訴したこと。即刻対処してくれた修から「だまされたと思って、俺と付き合ってみたら」と誘われたのが始まりです。修から手当てを貰い、恋愛ごっこをしているつもり。この日は、修好みの赤いスリップドレスを着て相手をしてほしいとリクエストされます。

加賀櫻（かが さくら）は、まりもと同じで自由をこよなく愛している、フランス文学専攻の大学院生。まりもが音楽系の短大生だった頃にカルチャー系イベントで知り合った友人です。インテリなのに頭が柔らかく、必要以上に相手の領域に踏み込まない櫻に、まりもは好感を持っています。

バー「水無月」で彩江子と待ち合わせしていたのは、世良晴人（せら はると）。彩江子がときどき一緒に仕事をしている写真家の助手を務めており、それだけでは食べていけないため掛け持ちのアルバイトをしています。晴人は彩江子に気のある素振りを見せ、自身が撮った廃墟写真を売り込みます。

自身を売り込んだ晴人は、彩江子を自宅まで送り自分のリクエスト（撮った写真を使ってくれそうな相手を紹介してほしいというもの）に良い返事をしてくれた彩江子に、サービスのキスをし帰っていきます。彩江子は晴人の誠実に見える態度を好意と誤解し、晴人に簡単に落ちてしまいます。

第三話　場違いなロマンティック

修から「今日は記念日だから二人でお祝いをしよう」と誘われた愛里紗は、おそらく修の付き合っている女性の誰かとの記念日だろうと推測しつつも、料理作りに勤しみます。単純でわかりやすい夫を愛里紗は好ましく思っています。

“よその女の人との記念日を妻と祝おうとするなんて、なんてまぬけで、可愛い人”と思っていた愛里紗は、修から「愛里紗が初めて一人で装幀を手掛けた本が出版された日」だと聞かされ驚きます。

愛里紗と修が食事を楽しんでいると、そこへ修にまりもから連絡が入ります。この日は修とまりもがホテルではなく、部屋で会うようになった記念日だったのです。まりもからの連絡に「ルール違反は困る。これ以上連絡してくるな。終わりだ。」と返した修でしたが、結局怒りながらもまりもの自宅へ駆けつけます。

ださいと思っていたはずの昭和の男女みたいに、修と玄関で抱き合う自分に「今夜のゲームに勝利した」と、まりもはロマンティックに感じます。

第四話　お仕事はここまで

愛里紗は大学時代の友人である彩江子から、装幀の仕事にどうかと世良を紹介されます。乗り気ではなかった愛里紗でしたが、初対面の世良を見てふと人中（鼻の下のくぼみ）と上唇の形が「きれい」だと気づきます。

編集者と三人で顔合わせするはずが、編集者側に急用ができたため修と愛里紗は二人でランチをすることになります。気に入っている店に案内すると言う修が車で連れて来たのは、人気のない裏通り。車内で待っているよう言われ不安になった愛里紗の前に、テイクアウトの料理を手に修が帰ってきます。

二年ぶりに帰国した英里華（愛里紗の双子の妹）は、初恋の人であり姉の夫である修とホテルで密会します。修は着飾った英里華の肩を強く抱き寄せ、ティーラウンジでピアノを弾いている愛人（まりも）の側を見せ付けるように通ります。

愛里紗と英里華は正反対の性格でしたが、男性の好みは同じで、英里華が日本を離れた理由は姉の夫を好きになってしまったからでした。二年前、英里華が帰国した際には最後までできなかった二人でしたが、想いが実り今回の帰国で結ばれます。

昼の秘め事はなかったかのように、夜は愛里紗の手料理を囲む英里華と修。「将来、日本へ戻ってくる気はないのか」と昼間ベッドの中でした会話を忘れ繰り返す修に、英里華は「アメリカでは、自分の思い通りに生きられる。日本では私が幸福になれる機会は閉ざされている」と答えます。

第五話　雨のち晴れ、ときどき淋しい

演奏旅行に九州に行くと出かけた玲門の置いていった本『晴れのち曇り、ときどき愛』を手に取る流奈。玲門が引いたマーカーの箇所には「もう、あなたのことを愛していない。でも、別れたあともあなたをなつかしがって、わたしはときどき淋しくなるだろう。」とありました。

玲門が持って出て行った洋服は、彼の気に入っているものばかりで、流奈は“レイモンは、もう、ここには、戻って、こない。”と悟ります。

アルバイトでピアノを弾いているところ、修に妻を見せ付けられ、その後相手から別れを切り出されたまりもはショックを受けます。別れを切り出すのは自分からだと思っていたまりもは、敗北感を味わいます。父親から勧められた人と見合いをし、その後デートしますが“この男は違う”と感じます。

第六話　それぞれの人生の「ある日」

第六話は細切れにそれぞれの登場人物の「ある日」の様子が描かれます。

Day1

英里華は愛里紗と修のことを思い出し、愛里紗は修のことを思いつつ料理を作ります。“夫には恋人がいる。昔からいたし、今もいる。自分にもいてもいいのかもしれない。”と思いつき、愛里紗が「ぼんやり」と渦巻いていた夢想が、心の中で現実になっていきます。

まりもと別れた修の次の相手は、新しく入社してきた加賀櫻。櫻はまりもと修のことを知っており、次は自分はどうかと、修に自身を売り込んできます。櫻の「自分には子どもがいるし、面倒臭い女じゃない、個人契約でどうか」との誘いに、修は面白いじゃないかと乗り気になります。

Day2

流奈は玲門と再会した、ライブハウス「ワンデイ」でまりものピアノに好感を持ちます。まりもはピンチヒッターのピアニストとして呼ばれており、ファンだったアーティストの伴奏ができる喜びに酔っていました。

博多行きの飛行機に乗っている玲門は、流奈のことを思い出します。若い女独特の欲望や執着、嫉妬などのいやな匂いがしなかった、いい女だったと振り返ります。

Day3

バー「水無月」のカウンターで、流奈が彩江子に“最近、何か素敵な出来事でもあったのかな”と尋ねます。仕事と晴人との関係も順調に行っていると思っている彩江子は、幸せな気持ちになります。しかし、“いつか、ばあちゃんに会わせたい”と言った晴人の言葉に、“いつかって、いつ？”と喉まで出かかって聞けなかったことも同時に思い出します。

一方の晴人は、家の近所の公園で手相を見ている占い師に“女難の相が出ている”と言われたのを思い出します。加賀櫻とできちゃった婚＆スピード離婚をするも、娘のもみじは現在の晴人の生きがいです。離婚経験のある彩江子に自身のことを打ち明けようと思いつつも、あと一歩何かが待ったをかけ踏み切れないと感じています。

彩江子を抱いていても愛里紗のことを想う晴人。「撮らせて欲しい」と頼めば、必ず撮らせてくれる愛里紗だが、とらえどころのない愛里紗が気になっています。

第七話　情事と事情

すっきりと晴れ上がった気持ちの良い青空の日。彩江子はふと“いいこと”を思い立ちます。それは、サプライズで晴人のアパートに差し入れを届けに行くというもの。晴人が驚きながらも喜んでくれる姿を想像し、うきうきと準備を始めます。

同じ頃、夫の修がシンガポール出張へ行き、暇を持て余した愛里紗もまた、ふと「晴人のアパートへ行ってみよう」と思い立ちます。

タクシーで晴人のアパート近くまで来た愛里紗は、アパート前に群集ができ、その中で警察相手に必死で何か説明している晴人を目にします。醜い野次馬に向かって歩いていく自分の姿など想像もできない愛里紗は、そのまま自身のマンションへ引き返します。

マンションに戻り寛ぐ愛里紗の元に、彩江子から「これから行ってもいいか」と連絡が入ります。彩江子は行きしなに「結婚前提で付き合っていたのに、晴人は結婚していて子どもがいたこと、先ほどそれを知り晴人のアパートで失態を演じてきたこと」などを愛里紗にメールで送ります。

傷ついた友人を迎え入れる準備を済ませた愛里紗は、ベランダでぼんやり考えています。彩江子と晴人が男女の関係にある驚いたものの、“情事の裏には、事情がある”と。眼下に彩江子の姿を見つけた愛里紗は、手を振っている彩江子に対し「かわいそうな女」と心の中でつぶやきます。

その時ベランダに捨てるのすら忘れていた、初めて会った時に晴人からもらった、偽物の備前の壺に植えられている枯れかけの紫陽花が目に留まります。ふと、これを彩江子にあげようかと頭をよぎるも“そんな醜いことを、私はしない。するなら、こんなこと”と行動に移します。

　愛里紗は、お気に入りのブルーの壺を両手で胸に抱きしめるようにして持ち上げると、手すりの上から、彩江子の頭上を目がけて落とした。
　さようなら、私の薔薇たち。
　逆さまになった植物が音もなく、土ごと壺から離れるのと、落ちた壺が音を立てて割れたのは、ほとんど同時だった。
　ふたりは、空を隔てて見つめ合った。
　それぞれの瞳に、女が映っている。

引用：情事と事情

原作小説の結末！「薔薇の壺を落とす」ラストが意味するものとは？

ラストでは、愛里紗が友人の彩江子に壺を落とす衝撃的なシーンが描かれます。これは「人間関係の決定的な断絶」とも、「愛里紗の優雅さの裏に潜む狂気」とも取れる展開です。登場人物たちの複雑に絡み合った関係性が明らかになり、それぞれの思惑が交錯する中で幕を閉じます。

愛里紗の「優雅さ」と「狂気」の交錯

愛里紗は物語を通して、「美しいもの」に固執し、それが自分の幸福だと信じて生きてきました。しかし、彼女の周囲で繰り広げられる人間関係の崩壊や裏切りが気づかぬうちに彼女の心を蝕んだとも考えられるのではないでしょうか。

「友情」と「嫉妬」の決定的な断絶

愛里紗と彩江子は、表面上は友人としての関係を続けてきましたが、根底には互いへの無意識の嫉妬や優越感が隠されていたとも考えられます。壺を落とすという行為は、彩江子に対する優越感や友情の仮面を剥がし、愛里紗自身の内なる嫉妬と対峙した結果の行動と言えるでしょう。

「薔薇の壺」は、愛里紗の完璧な世界の象徴

壺は単なる花器ではなく、愛里紗にとって「自分が守りたい完璧な世界」を象徴していた可能性があります。それを自ら破壊することで、愛里紗は「自分の中にある何か」を壊したかったのかもしれません。もしくは、彩江子に対して「これが私の本性だ」と示したのかもしれません。

愛里紗の本質とは？

愛里紗の行動は単なる衝動ではなく、彼女自身の「表向きの優雅さ」と「内なる狂気」の象徴的な融合だと考えられます。このラストシーンは、愛里紗が抱える感情の複雑さを端的に表したものであり、物語全体を通して彼女がどれほど危ういバランスの上で生きていたかを示しています。

原作小説とドラマ『情事と事情』との違い

ドラマはLeminoで配信されますが、出演者情報で原作小説には登場していなかったと思われる名前が並んでいます。

ドラマオリジナル？新キャラクターの追加

ドラマでは、原作にはいなかったキャラクターが登場しています。

• 西浦正太郎（田村健太郎）
  彩江子の幼馴染で弁護士。彼女の良き相談相手として登場。
• 牧村陽太（坪倉由幸）
  愛里紗の仕事相手である編集者。愛里紗に密かに好意を抱いている。
• 水無月寿美子（銀粉蝶）
  流奈の母親で、自身も過去に不倫を経験した人物。

演出の違い

ドラマでは、一人二役を演じる倉科カナさんの迫真の演技が見どころです。また、映像美や音楽が加わることで、原作の「優雅で艶やかな雰囲気」がより一層引き立てられています。

原作小説の見どころ、感想まとめ

この記事では、小説『情事と事情』の結末ネタバレやドラマ版との違いを解説しました。

• 原作ラスト：愛里紗が彩江子に壺を落とす衝撃的なシーンで幕を閉じる。
• ドラマ版との違い：新キャラクターや一人二役の演技など、ドラマならではの要素が追加されている。
• 見どころ：人間関係の裏に潜む「事情」と、優雅さの裏に隠れた「狂気」。

本作は、「誰にも共感できないけど目が離せない」といった感想が多い作品です。不倫や裏切り、嫉妬といった重いテーマを扱いながらも、どこか優雅で美しい。そうしたギャップがこの作品の魅力となっています。